株式会社IHIの瑞穂工場では、業務システムから出力する各種帳票の開発工数を削減するために、ルート42の帳票開発ソリューションDocurainを採用。帳票デザインツールとしてExcelが利用できるDocurainによって、帳票作成・修正作業がユーザー主導で行えるようになり、システム担当者にとって大きな課題だった帳票開発の負荷を大幅に軽減した。
株式会社IHI
帳票テンプレート作成 ・修正工程をユーザー部門へ移行
Docurainにより開発工数削減を実現
株式会社IHI
1853年に創設した「石川島造船所」を起源とし、1960年には播磨造船所と合併して「石川島播磨重工業」となった後、2007年にグローバルブランドの強化のため社名を「IHI」に変更。現在では、総合重工業メーカーとして、資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械、航空・宇宙の4つの事業分野を中心に新たな価値を提供。「技術をもって社会の発展に貢献する」という経営理念のもと、高いエンジニアリング力で様々な社会課題の解決に貢献している。
瑞穂工場 第二品質管理部 ICTグループ 主査(課長)荻原 和広氏
瑞穂工場 第二品質管理部 ICTグループ 西 周氏
瑞穂工場 第二品質管理部 品質技術グループ 栗原 理也氏
瑞穂工場 第二品質管理部 ICTグループ 名倉 広次氏
民間エンジン事業部 整備統括部 部品修理グループ 中村 裕一氏
導入の背景
帳票開発作業の負荷軽減が長年の課題
日本を代表する総合重工業メーカーである株式会社IHI(以下、IHI)は、モノづくり技術を中核とする卓越したエンジニアリング力を活かしたビジネスをグローバルに展開し、航空・宇宙・防衛、産業システム・汎用機械、資源・エネルギー・環境、社会基盤・海洋など幅広い分野の製品を生産している。
同社の航空・宇宙・防衛領域の拠点として1969年に設置されたIHI瑞穂工場は、米軍横田基地に隣接しており、ジェットエンジンや宇宙機器の組み立てのほか、国内外の民間航空機、自衛隊機のジェットエンジンをメンテナンスする事業を手掛けている。そんなエンジンメンテナンス部門の情報システムを担当し、「IEMS(IHI
Engine Maintenance System)」と呼ばれる業務システムのスクラッチ開発、および運用管理を担当しているのが第二品質管理部 ICTグループだ。
「IEMSは、工場部門の基幹システムなどから幅広く取得したデータや、事務所部門独自のデータを蓄積し、ビジネスデータとして業務活用することを目的にしています。数多くの業務サブシステムによって構成されているため、当然のことながらデータを加工して各種帳票を作成することも頻繁に発生します。事業部門のユーザーからは、新しい帳票の作成、あるいは帳票の改訂が必要になるたびに、私たちに帳票開発の依頼が届きます。帳票開発は負荷のかかる作業であり、工数を削減することが長年の課題でした」と話すのは、同グループの主査(課長)を務める荻原
和広氏だ。
また、帳票を利用するユーザー側にも、使い勝手の面で課題があった。瑞穂工場 第二品質管理部 ICTグループ 西 周氏は、次のように話す。
「ユーザーからは帳票出力のボタンをワンクリックするだけで、必要な帳票が出来上って欲しいという要望があがります。しかし、その度に出力機能をスクラッチ開発していたのでは効率が悪く、多くの細かい帳票に対応していくには帳票出力ツールの高機能化、および標準化により、開発コストの削減を図る必要がありました」
こうした開発側、ユーザー側双方の課題解決を目的としてプロジェクトが発足。西氏が中心となって、新しい帳票の仕組みを検討することになった。
導入の経緯
ユーザーが帳票を直接操作できる仕組みを探す
西氏はまず、帳票の仕組みをフルスクラッチ開発で対応することを検討した。しかしフルスクラッチ開発では、開発工程はもちろん運用・保守の負荷も今以上に増えることになる。そのためフルスクラッチ開発を早々に諦め、IEMSのサービスとして組み込むことができるパッケージの帳票ツールを探すことにした。
「IEMSはマイクロサービスアーキテクチャを採用したシステムで、それぞれ独立した小規模なサブシステムが提供するサービスの連携によって成立っています。そこで帳票に関しても、同じようにサービスとして組み込めるようにREST
APIに対応した帳票ツールであることが第一の要件でした。また、システム担当者の負荷を軽減するために、ユーザー側で帳票デザインが可能なツール、帳票の印刷機能を持つツールであることも要件として挙げました」(西氏)
ユーザー側としても、帳票を直接作成・編集できる仕組みを望んでいた。ユーザー部門である民間エンジン事業部 整備統括部 部品修理グループに所属する中村
裕一氏は、その必要性を次のように説明する。
「ある日突然、帳票の修正が必要になる場合があります。従来はそのたびにシステム担当者に修正を依頼していましたが、都度、システム担当者とユーザー側ですり合わせをする必要があるため、軽微な修正ならばユーザー側が自分たちで直接帳票を修正できれば、朝一番で即時対応できるようになり、業務がスピーディーにまわります」
急いで帳票を変更しなければならない理由について、ユーザー部門とシステム部門の橋渡しをする第二品質管理部 品質技術グループ 栗原 理也氏は、次のように中村氏を補足する。
「取引先によっては見積書などの帳票フォーマットが指定されているなど、IHIに帳票作成の主導権がない場合もあります。先方の都合によってフォーマットが変わったとしても、すぐに修正しなければなりません。このような場合でも、ユーザー側で帳票を即時に改訂できるため,大変なメリットがありました」
また、瑞穂工場 第二品質管理部 ICTグループ 名倉 広次氏も、「例えば、帳票のフォントサイズを変更したいといった非常に細かい修正がある場合にも、システム部門に依頼しなければなりません。ユーザー側としても、われわれに頼みづらい雰囲気があったようです」と当時を振り返る。
こうした要望をまとめた西氏らは、候補となる帳票ツールを絞り込み、比較検討することにした。その中で特に重要視した要件が、ライセンスコストの問題だ。
「世の中には多くの帳票ツールがあり様々な角度で検討しました。中には、帳票を作成・編集するのに専用のデザインツールを使用する必要がある製品があります。瑞穂工場には、帳票を作成・編集する作業を行うユーザーが数十人に及ぶため、普段慣れ親しんでいるツールであることが望ましい、特段Excelのように通常利用しているソフトウェアで帳票を作成・編集できる製品であれば特別なレクチャーも必要なくユーザーに使っていただけます。また、専用のデザインツールが必須となると人数分のライセンス利用料が大きな負担になる点も考慮せざるを得ませんでした。」(西氏)
そうした中で目に止まったのが、ルート42のDocurainだった。
導入効果
帳票開発にかかる時間は3分の1程度に短縮
Docurainに興味を持った西氏らはルート42に詳細説明を依頼。実は、Docurainは、Web
API経由で帳票を作成する「クラウド版」を主力製品として展開しており、APIコールに対する従量課金制をとっている。ところが、IHIでは社内のITインフラ環境上、クラウドでの運用を志向していなかった。そこでルート42では、IHIの要望に応えるために、サーバライセンス課金の「オンプレミス版」を特別に提供し、まずは試用版でその機能を体験してもらうことにした。
IHIでは2018年2月から約2カ月間をかけて詳細な検証作業を実施。「REST APIに対応していること」「Excelをデザインツールとして使用できること」「.xlsxだけでなく.pdf等、複数のファイル形式の出力に対応していること」といった要件を満たし、動作テストでも問題がないことを確認することができた。
「試用版による検証作業の結果を受け、Docurainを正式に採用することに決定しました。採用の決め手になったのは、やはり要件に対して必要十分な機能がそろっていた上に、コストパフォーマンスに優れていたところです。他の帳票ツールと比較すると、デザインツールのライセンスが不要な分、コストは約5分の1に抑えられ、当社にとって最適な選択肢となりました」(荻原氏)
こうして2018年3月にDocurainを採用することに決定。6月の本番運用開始に向け、従来の帳票をベースにボタンをクリックするだけでデータを取り込める機能を実装するなど、導入作業を進めた。また導入にあたっては、中村氏、栗原氏らの協力を得て、独自のユーザーマニュアルを作成・展開するなど、帳票を扱うすべてのユーザーが利用しやすい環境を整えていった。
Docurain本番運用開始後の効果は絶大で、ユーザー部門、システム部門の双方に大きな反響とメリットをもたらした。
ユーザー部門である中村氏は、「帳票の作成・修正をユーザー主導にしたことで、お客様からレイアウト変更の指示があっても、Excelで修正作業を行って迅速にDocurainへ反映することが可能になりました。修正を依頼してテストを実施したのちにリリースしていた従来に比べ、帳票の開発にかかる時間は半分から3分の1程度になりました。顧客に近い我々ユーザー部門にとって、とても大きな改善ポイントです」と顔をほころばせる。
また、ユーザー部門とシステム部門の橋渡しをする栗原氏も、「業務システムのデータをコピー、貼り付けるという従来の帳票入力には、平均すると30分程度かかっていましたが、現在は瞬時に終わります。確認作業を含めても、必要な作業時間は約3分の1に短縮できるようになりました。その帳票出力機能の開発も、本来であれば数日かかっていたものが、数時間で完了しています」と、その時間短縮の効果を力説する。
また、荻原氏は続けて、「帳票開発の作業は、これまでシステム担当者によって属人化していましたが、Docurainの導入後はきちんとルール化することができました」と、当初の課題であった帳票開発の工数削減効果に加え、標準化が進んだことの意義を指摘する。
Docurainの導入は、ユーザー部門とシステム部門に“生産性”と“標準化”という大きなメリットと意義をもたらしたのだ。
今後の展望
適用範囲のさらなる広がりを期待
IHIでは、ルート42のサポート体制についても高く評価している。
「不明な点やトラブルがあったとしても、ルート42に報告するとその日のうちに対応してくれました。機能についての要望もいくつか送りましたが、次の改修時に反映されるなど弊社にフィットしたツールにアレンジするよう柔軟に対応してくれるところも評価しています」(西氏)
最後に、荻原氏に今回のプロジェクトの総括をうかがった。
「Docurainを導入した本当の効果は、これから表れてくるのだと思います。ただ、私たちシステム担当の開発者目線とユーザー目線は違うので、たくさんのユーザーが帳票の開発に関わることで、今後はユーザー側から開発者が想定していない使い方も要望として出てくるかもしれません。そうした気付きが生まれることで、より業務を改善することにつながるのだと思います。そして、今後ますますDocurainの適用範囲が広がることに期待しています。」(荻原氏)